プライベート・エクイティは、産業革命期に起源を持ち、100年以上の歴史を持つ投資方法です。初期には富裕層のファミリーが交通インフラのプロジェクトに資金を提供していましたが、それが現在ではさまざまな領域の投資に拡大し、運用資産総額は世界全体で4兆ドルを超えています。
プライベート・エクイティとは何ですか
プライベート・エクイティとは、非公開企業に対して資本を投資し、その対価として株式や所有権を取得することを指しています。公開企業とは異なり、このような企業は一般の投資家が直接投資できるものではありません。プライベート・エクイティの資本は主に、低い流動性を許容でき長期的な投資を行う機関投資家や適格投資家から提供されます。この分野で最も活発に投資を行っているのは、年金基金、寄付基金、ファミリー・オフィスです。
プライベート・エクイティとベンチャー・キャピタルの比較
プライベート・エクイティ投資は一般に財務状況が確立された規模の大きい成熟企業を対象としますが、ベンチャー・キャピタルは大きな成長可能性を持つ初期段階の企業に焦点を当てています。ベンチャー・キャピタル投資は、繰り返し行われる資金調達ラウンドを通じて進められることが特徴ですが、プライベート・エクイティの場合は通常、企業の支配権を取得し、フィナンシャル・エンジニアリング的な手法を使って企業価値の向上を図ります。
プライベート・エクイティの歴史
プライベート・エクイティの歴史は長く、変化に富んでいます。その起源は産業革命の黎明期にさかのぼり、その頃は、裕福な個人が鉄道や産業ベンチャーに資金を拠出していました。最初の大規模なバイアウトとして広く知られているものは、1901年にジョン・ピアモント・モルガンがカーネギー・スチール・カンパニーを買収した取引です。1940年代には最初のベンチャー・キャピタル会社が設立され、1980年代はレバレッジド・バイアウトが存在感を持つ時代となりました。しかし、1989年のジャンク・ボンド市場の崩壊を受け、リスクの高い取引を抑制するための規制が導入されました。2008年に起きた世界金融危機の後は、高いリターンを求める投資家のニーズを背景にプライベート・エクイティ市場が再び活発化しました。
プライベート・エクイティ投資戦略
プライベート・エクイティにはさまざまな投資戦略があり、いずれも企業の特性や投資目標の違いに合わせて調整されています。以下に、プライベート・エクイティ分野で用いられる主要な戦略と、それぞれのリスク・リターン特性を解説します。
1. バイアウト
バイアウトとは、投資家または投資家グループが企業の所有権の半分以上かすべてを取得するものです。その際は、取得資金の一部をレバレッジで賄うことが多く、これにより投資家は投入した資金に対するリターンを最大化できます。バイアウト・ファンドは通常、企業の業務改善や経営の合理化を進め、財務効率の向上を図ります。投資家は企業経営に積極的に関与し、場合によっては経営陣の入れ替えまでも行います。バイアウトはプライベート・エクイティ市場で最も大きなセグメントとなっており、この資産クラス全体のパフォーマンスに大きな影響を与えています。
リスク・リターン特性:近年、バイアウト・ファンドは安定した高いリターンを生み出しており、とりわけ小規模なバイアウト・ファンドは、購入価格が低いことから特に高いリターンを記録しています。
2. グロース・キャピタル
グロース・キャピタル投資は、事業拡大を目指しつつもバイアウトの段階には至っていない比較的成熟した企業を対象とします。一般的にこのような企業は、確立されたビジネス・モデルや実績を持っているものの、事業発展に向けての取組、市場拡大、新製品の投入に追加の資本を必要としています。バイアウトとは異なり、グロース・キャピタル投資では通常、投資先企業の少数持分を取得し、経営権は引き続き既存の経営陣が保持します。投資家は積極的に経営への実務的な関与を行わず、企業の成長戦略を支援することに重点を置きます。
リスク・リターン特性:グロース・キャピタル投資のリスクは中程度であり、リターンは一般的にバイアウトより低くなります。しかし、成長の可能性があるため、公開市場での投資よりも高くなります。
3. ターンアラウンド投資
ターンアラウンド投資とは、業績不振の企業や財務面で問題のある企業を対象とした投資のことです。この戦略では、そのような苦境にある企業を低価格で取得し、業務改善や収益性向上のための改革を実施します。ターンアラウンド投資家は、企業再建を支援するために、経験豊富な経営陣やコンサルタントを招聘し、事業の再構築、コスト削減、企業の活性化を図ることが一般的です。
リスク・リターン特性:ターンアラウンド投資は成功すれば高いリターンが得られる可能性がありますが、不振な事業の再建には不確実性が伴うため、リスクも大きい投資手法です。
4. ファンド・オブ・ファンズ
ファンド・オブ・ファンズは、投資家から資本を集めて他のプライベート・エクイティ・ファンドに投資する投資戦略です。この戦略では、投資家は、個別のファンドごとに詳細なデューデリジェンスを行うことなく、多様なファンドや投資戦略に投資できるという分散効果を得ることができます。
リスク・リターン特性:このアプローチは、単一のファンドに投資するよりはリスクを減らすことができますが、手数料が二重にかかる構造であるため、手数料負担が増え、全体的なリターンが低下する傾向があります。
5. セカンダリー投資
セカンダリー投資は、他の投資家が保有する既存のプライベート・エクイティ・ファンドの持分を購入する投資です。この手法により、投資家は新規ファンドに資本を拠出することなくプライベート・エクイティに投資できます。セカンダリー投資には、ファンドの満期前に持分の売却を希望する既存投資家に流動性を提供できるという側面もあります。
リスク・リターン特性:セカンダリー投資は、既存のファンドの実績をもとに投資判断ができるため、リスクが比較的低い傾向にあります。ただし、購入時の市場環境次第でリターンに大きな差が生まれることがあります。
6. ベンチャー・キャピタル
ベンチャー・キャピタルは、カテゴリーが異なると考えられがちですが、広義のプライベート・エクイティに含まれる主要な戦略の1つです。ベンチャー・キャピタルは、高い成長可能性を持つ起業初期段階の企業を主な投資対象とします。そして、企業がいくつかの成長段階を経て発展していく過程で複数回の資金調達が行われることが特徴です。
リスク・リターン特性:ベンチャー・キャピタルは、特に高いリターンが得られる可能性がありますが(特に起業初期の投資の場合)、多くのスタートアップ企業は失敗に終わりますので、高いリスクも伴います。
各投資戦略はリスク・レベルと想定リターンの水準に違いがあることから、多くの投資家の特性に適する戦略があります。プライベート・エクイティ市場に資金を配分する投資家にとって、リスク許容度や目指す結果に合わせて投資を選択することができるので、戦略内容を理解することは非常に重要となります。
プライベート・エクイティに投資する理由
プライベート・エクイティへの投資には、いくつかの優れたメリットがあります。第一に、高い絶対リターンを得られる可能性があります。プライベート・エクイティ運用者は、安く購入した企業の企業価値を高めることにより、高く売却する投資を目指しています。第二に、未上場企業は一般に公開市場との相関が低いという特徴を持っていることから、プライベート・エクイティは未上場企業への投資を通じてポートフォリオの分散効果を得ることができます。リスクを管理しつつリターンを高めたい投資家にとって魅力が高まっています。
まとめると、プライベート・エクイティは、機関投資家のポートフォリオに欠かせない役割を担うように進化してきました。変化する経済環境の中で高いリターンと効果的なリスク分散を求める投資家に、プライベート・エクイティはメリットを提供します。この分野の成長が続く中で、現在では個人投資家にも門戸が開かれつつあります。各国の規制環境はホールセールとリテール投資家のポートフォリオにある程度のプライベート資産を含める動きを後押ししており、この動きは実体経済の資金ニーズを満たす一助となるとともに、投資家に分散効果と魅力的なリターンを提供します。この流れはプライベート資産の民主化あるいはリテール化とも呼ばれ、この資産クラスの発展を一層加速すると予想されています。